Hirofumi Inoue
政治のデジタル化が進まない理由 収支報告書をオンライン申請してみて分かった 議員側の認識不足なのか?
政治とカネのデジタル化が進んでいない。国会議員が関係する政治団体が、2019年分の政治資金収支報告書をオンラインシステムで提出したのは1%余りで、翌20年分も4%強にとどまった。政治資金規正法はオンライン提出を努力義務と定めているものの、一向に進んでいないのが実状だ。デジタル化の司令塔・牧島かれんデジタル相も従来通り紙で提出したとして批判を浴びた。共同通信の記事はこの背景に「議員の認識不足」を指摘するが、果たしてそうなのか。私が今月、オンラインで申請してみた。

〝ザル法〟として知られる政治資金規正法第12条の規定で、政治団体の会計責任者は毎年3月末までに収支報告書を提出しなければならない。問題となっているシステムは総務省が05年に導入した「政治資金関係申請・届出オンラインシステム」で、政治団体向けのパンフレットには①いつでも提出できること②(窓口に行かず)時間をかけずに提出できること③手間と経費を節減できること――などのメリットを挙げている。
一方、総務省側の目的は何か。同省の昨年度分の行政評価レビューシートを読むと、同省や都道府県選管の業務効率化や手続きのオンライン化、収支報告書をインターネット上に公表することで国民の情報入手が進めることを意図していることが分かる。朝日新聞によると、導入以来、国は約36億円を投じた。年間のランニングコストは数千万円規模とみられる。
報告書提出の大枠としては、政治団体が利用申請後にサイトからログインし、専用ソフト(マクロ付のエクセルファイル)で作成した報告書を、総務省や各都道府県の選挙管理委員会にオンラインで提出する。説明すれば短いものの、実際に利用してみると使い勝手の悪さに閉口した。恐らく総務省に伝わっていると信じて詳細は省くが、一部を挙げると、①多すぎるマニュアルと、分かりやすさという言葉の意味を知らないと疑うユーザーインターフェース②利用申請して初回だけ使うパスワードが郵送で届いた後、わざわざ別のログインページを指定するなど、何段階認証なのかと疑うレベルの手間③謎のエクスプローラー推しでエッジの説明が不十分。もちろん他のブラウザには未対応④動画の説明も「お役所」クオリティ⑤専用ソフトでは杓子定規の自動エラーチェックで前に進まない――などなど。提出する領収書データもPDFではなくJPEGのみに限定されており、正常にスキャンできたことを確認して申請したものの、一部が切れているとしてオンラインシステムから届いたメールで修正を求められる始末だ。こんな使い勝手が悪いものを億円単位で開発・運用するのはどういう了見だろうか。総務省が示した政治団体向けの説明は「いつでも提出できること」を除いて全くの見当はずれだと言わざるを得ない。
サンクコスト(埋没費用)は無視して、このシステムを根本から作り直さないとオンラインによる政治資金収支報告書の提出は絶対に進まないというのが今回の感想だ。システムの利用低迷は議員の認識不足ではなく、システムの使い勝手の悪さという要因もある。政府がどれだけ利用を促したところで、根本的には何も解決しないだろう。
【追記】
令和2年度行政事業レビューシート(↓ https://www.soumu.go.jp/main_content/000710315.pdf)は目を通した方がいいです。お手盛りってこういうことを言うのですね。国民をバカにしているとしか言いようがないです。目標値を大半は書いてないし、評価項目は「整備された施設や成果物は十分に活用されているか」という部分のみ「△」で、ほかは軒並み「〇」ですから。いや…「×」でしょ。「政治家の認識不足」でオンライン提出が進まないと今後も言われ続けるのは、釈然としないっすね。これはシステムの構造上の問題がたぶんにあると思います。今回オンラインで申請してみてよかったのは、佐賀県唐津市から1時間かけて佐賀市の県選管にわざわざ提出しなくてもよいという点だけでした…。
あ、バイトの時間だ。
それではまた。
【参考】
朝日新聞「進まぬ政治とカネのデジタル化 36億投じて利用率1%」(https://www.asahi.com/articles/ASNDC75JJNCTUTIL024.html)(2022年2月25日閲覧)
共同通信「オンライン提出たった4%」(https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE292MQ0Z21C21A2000000/)(2022年2月25日閲覧)
総務省「令和2年度行政事業レビューシート」(https://www.soumu.go.jp/main_content/000710315.pdf)2022年2月25日閲覧
政治資金収支報告書12条
政治団体の会計責任者(報告書の記載に係る部分に限り、会計責任者の職務を補佐する者を含む。)は、毎年十二月三十一日現在で、当該政治団体に係るその年における収入、支出その他の事項で次に掲げるもの(これらの事項がないときは、その旨)を記載した報告書を、その日の翌日から三月以内(その間に衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の公示の日から選挙の期日までの期間がかかる場合(第二十条第一項において「報告書の提出期限が延長される場合」という。)には、四月以内)に、第六条第一項各号の区分に応じ当該各号に掲げる都道府県の選挙管理委員会又は総務大臣に提出しなければならない